このボールペンは、ペンにとって究極のシンプルネスともいえる円筒形のフォルムをしている。これが優れているところは、あるべきものがないことが謎になるのではなく、そのことこそがボールペンというモノのかたちそのものと、機能との両面をいっそう際立たせていることだ。
やにわに手にしてキャップを外すときの金属の感触も心地よい。ペン先はぜいたくに真鍮(しんちゅう)素材を使い、その有機的なフォルムは、初めて手にした瞬間から指先にしっくりとなじんでくれる。シンプルな外観とは対照的なペン先の直感的なシルエットは、あたかもミニマルのなかに、プリミティブを隠しもっている、そんな印象だ。このペン先のフォルムは、デザイナーである秋田氏がフリーハンドで描いたフォルムからモデリングしたものだという。
しっとりとなめらかな書き心地を誘発するこのボールペンの形状は、ペン先のフォルムと色が想起させるように、「筆」に似ている。書道をするとき、人は誰に教わったわけでもなく、背筋を伸ばし、正座をして半紙の前にむかう。そんな「背筋を正す」「しぐさのデザイン」がこのボールペンには潜在的にそなわっている。
秋田氏を表していわれるのが、エッジの効いたミニマルなデザインという言葉と、ふつうのデザインという言葉に代表さる、人の暮らしにそっとより添う「空気のようなデザイン」という言葉。
触れると手傷を負ってしまいそうなシャープさは、秋田氏のプロダクトに誰もが認める特徴的な要素で、「Primario」シリーズや、デザイン家電の先駆けとなった「deviceSTYLE」シリーズに如実にあらわれている。
それとは逆に、プロダクトデザイナーみずから販売する、「80mm」という湯のみや、家電メーカー「Haier」の洗濯機や冷蔵庫には、昨今はやりの「ほっこり」といってもいいような、普通の暮らしに根づいた温かみをはっきりと感じることができる。
長年にわたるデザイナーとしてのライフワークの現在の到達点が、このクールでミニマルという、一見感情を排除したようにみえて、感情を喚起させるこのボールペンのデザインにあることは、とても興味深い。
かたちがシンプルだとか、素材感を引き出すという無垢感、機能的などといった、ともするとデザイナーが狙うと逃げていってしまうものをデザイナーとしてどう捉えるか。そんな秋田氏の一貫したデザイン精神を反映し、単なるスタイリングではない、書き心地という当たり前の機能をとことん追求したからこそ生まれ得たボールペンだ。【加藤孝司,エキサイトイズム】
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